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第2話『 思わぬ土産 』

綾染彦はお気に入りのハンバーガーショップに来ていた。

「思い出してよかった~」

 

クーポンの期限が近付いていたのだ。
好物のフライドポテトをかじりながら独り言ちる。

雷花を送り出したあと。

一通り部屋の片づけなどを済ませ、小腹が空いたなと思ったところでクーポンの存在を思い出したため、ランチに来たというわけだ。


このハンバーガーショップはチェーン店よりも少しばかりボリュームが多い。素材や味にもこだわりがあり、その分お値段が張る。抽選でもらえるアプリクーポンがあるとき以外はなかなか来れない店だった。

 

「はぁ、やっぱうま…。パテの肉汁やば。このソースが絶妙~。ポテトのカリカリ食感にハーブソルト、自家製ジンジャーエールはピリッと生姜が効いてて口がさっぱりするし。ちょっと高いけどお値段以上の価値はあるよな~。もっと頻繁に来れればいいんだけど、さすがに厳しいし。バイト代上がんねぇかな~?無理か。はは。さてそのバイトは夕方からのシフトだし、それまで何するかな」

 

今日のバイトはずっと続けているライブハウス併設のCDショップのものだ。店長はゆるいので多少遅刻したところで問題はないが、仕事はサボらずやるのが信条。その店長はゆるいがクセのある人物であまり遊ばれるネタを与えたくないというのもある。誰かと一緒なら相手に合わせて目的地を選べるが今日はひとり。生活用品を買いに行くような気分でもなし、そもそも今は特にいるものもない。たまには目的を決めずぶらぶらと散歩がてらうろつくのもよいだろう。

「ありがとうございました~!またのお越しをお待ちしておりま~す!」

​「ごちそうさま~」

 

目元の見えないちょっと変わった店員の声に見送られ、ランチを終えた綾染彦はきれいに整えられた通りに立ち並ぶ様々なショップのウィンドウを眺めながら歩く。

 

「あ、ここ空き店舗だったのに新しいテナント入ったんだな。雷花の好きそうな焼き菓子の店か…土産に…いや、あいつのことだ。すでにチェック済みな気がする。スイーツに関する情報の速さは尋常じゃないしな…。今日はあいつもどっかでスイーツ食ってんだろうからやめとくか」

 

今は腹もいっぱいで、ただでさえ甘いものが得意でない綾染彦にとって焼き菓子の香ばしいバターのにおいは入店を誘うものではない。
綾染彦は焼き菓子店の前を通り過ぎ、細い裏路地へと入った。

 

「こういう裏路地の雰囲気ってちょっとわくわくするよな。この先を抜けたら公園のあたりに出るはずだから腹ごなしの散歩にはちょうどいいだろ」

 

この裏路地は少し薄暗く、剝き出しの配管が何本も並び、錆びた扉の脇には何が入っているかわからない木箱が積まれていて、ちょっと荒れた雰囲気が非日常感を醸し出していたが、この辺りの治安は良いので、裏路地といっても危険なことはない。飲み屋が連なるのは先ほどの通りを反対側に進んだ先で、公園があるこちら側とは趣が異なるのだ。

 

そんな裏路地の出口が見えてきたあたりで、ふと綾染彦は前方にあるものに目をとめた。

 

「…なんか…ひとが…倒れてる?!」

to be continued.

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