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『 メロンとメロンソーダ 』



夏の暑さも徐々に和らいできた。湿度も低く過ごしやすい日の午前中。 綾染彦は永助の書庫整理のアルバイトをしていた。
アルバイトといっても堅苦しいものではない。
永助が積みっぱなしにしている本や私物をざっくりと整頓してちょっと小遣いをもらう。コドモのお手伝い程度の気軽さのもの。
数か月に一度の恒例行事だが、今日はちょっとしたハプニングが発生した。

本棚の隅からAVを発見してしまったのだ!

「おいおいおいえーすけ!彼女いるくせになんだよこれ!」

自分の書庫であるにもかかわらず、ほとんど作業もせず本を読んでいる永助に突きつける。

「あぁ?そんなの女が恋愛ドラマ見るのと変わんねぇよ」

悪びれも、恥ずかしがりもせず、まるで当たり前のことのように返される。 ・・・むしろ若干ニヤついてさえいる。

「それはちがうだろ」

恋愛ドラマとAVが同じとは思えない。

「一緒一緒。どっちもほとんどファンタジーだろ。現実と区別ついてりゃ問題ないのよ」

「う~~~~~~ん?」

恋愛経験の乏しい綾染彦にもAVがファンタジーの域にあるということはなんとなくわかる。数えるほどしか見たことがなくても、あまりにも都合のよい展開ばかりで、とてもリアルだとは思えなかったからだ。
だが恋愛ドラマと同じと言われるとそれは違うのではないかという気がする。
彼女がいるならAVなどいらないのではないかと。いたことがないのでわからないけど。



昼食用に作ったサンドイッチをのせたトレーを手に、ドアの前で会話を聞いてしまった雷花は小声で尋ねる。隣にいる千歌鈴に。当の永助の彼女である千歌鈴に。

「理屈はわからなくもないけど…いやじゃない?」

「そうねぇ、メロンソーダって美味しいわよね」

「はぃ?」

あまりに想定とかけはなれた返答に、雷花は思わず気の抜けた声を出してしまった。

「でもメロンソーダがあれば本物のメロンはいらないってことはないんじゃない?」

「あ、あ~・・・」

なんとなく。雷花には千歌鈴の言っていることがわかるような気がした。しかし同時に自分だったら怒ってしまうだろうな、とも思った。



「ま、お前も18になったら見せてやるから」

相変わらず永助はニヤニヤとしながら、綾染彦からAVを取り上げた。

「いらねーよ!」

少し頬を赤くして綾染彦は叫ぶように言う。
間を置かず、部屋の入り口から声がかかる。

「永助さん彦君お昼ごはんにしましょ~」

「おー」

自然体でやりとりするオトナふたりと千歌鈴の後ろでトレーをかかえて何事か考えている様子の雷花を横目に、綾染彦は慌ててなんでもない風を取り繕った。

(聞かれてない、よな?!)

雷花は先ほどの千歌鈴の発言を振り返り、

(自分をメロンにたとえるのって結構すごいんじゃないかしら・・・)

などと考えていた。



end.

​なんでもない日のこと。

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